産婦人科医になるには?高校卒業からの流れや医学部に合格するポイントも解説
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カテゴリ:基礎知識
産婦人科医は診療科の中でも知名度が高く、産婦人科医を主人公としたドラマやマンガなどもあります。
その一方で、「拘束時間が長く大変そう」「ちょっとしたミスで訴訟を起こされる可能性が高い」といったマイナスイメージもあります。
それでも、「やりがいがありそう」「実家が産婦人科病院」「社会貢献度の高い仕事がしたい」等の理由で産婦人科医を目指す方もいるでしょう。
本記事では、産婦人科医の仕事内容ややりがい、年収や産婦人科医になるまでの流れを解説します。
産婦人科医を目指したり産婦人科に興味がある学生は、参考にしてください。
産婦人科医の仕事内容ややりがいを解説
はじめに、産婦人科医の仕事内容ややりがい、リスクなどを解説します。
産婦人科医というと赤ちゃんの出産を介助したり帝王切開などをおこなったりする医師、といったイメージが強めです。
しかし、産婦人科医の仕事は、赤ちゃんの出産の手助けだけではありません。
また、産婦人科医のリスクはどの程度高いのか、女性医師と男性医師の割合なども解説するので、参考にしてください。
産婦人科医の仕事内容
産婦人科医とは、妊娠や出産、さらに女性特有の疾患の治療を専門とする医師です。
大きな病院では産科と婦人科に診療科が分かれているところもありますが、そのどちらも産婦人科医の領分です。
一方、小さな病院や個人クリニックでは、1人の産婦人科医が妊婦さんの検診や出産の介助と子宮や卵巣、乳房といった女性特有の疾患の治療を行っているところもあります。
また、現在は技術が進歩し、一般的な妊娠の判定や出産までの検診だけでなく、不妊治療を含む高度生殖医療も産婦人科の領分となりました。
生殖医療専門の科を設けるところや、専門のクリニックを開設する産婦人科医もいます。
このほか、婦人科の領分としては思春期や更年期に起こりがちな女性ホルモン由来の精神や体調の不調の治療も産婦人科医の仕事です。
このように、産婦人科医の仕事は外科だけでなく内科や精神科、小児科といった別の専門科の知識も必要とされます。
また、小児科や内科、精神科などの専門医と連携を取って仕事をするケースもあるでしょう。
産婦人科医の就職先
産婦人科医の就職先は、総合病院やクリニックで勤務医として働くか、自分で病院を開業するのが一般的です。
中には「親の病院を継ぐ」といったケースもあるでしょう。
産婦人科医の仕事内容は多岐にわたるので、産科の仕事を主に行いたいのか、婦人科の仕事を行いたいのか、決めてから就職先を選ぶ必要があります。
近年は、生殖医療に進む選択もあり、生殖医療を主に行うクリニックを開業する医師も増加しているとのことです。
このほか、近年は産婦人科医不足に悩む地域が増えており、自治体が高額な報酬を提示して産婦人科医を招く事例もあります。
それに応じて、地域貢献に尽くす医師もいるでしょう。
なお、規模の大きな病院のほうが同僚が多い分、心身共に余裕を持って仕事に臨める傾向です。
産婦人科医の年収
産婦人科医の年収の平均は、1428万9,000円です。
令和3年度の医師の平均年収が1,378万3,000円と比べて高めですが、産婦人科医になればすぐに1,000万円以上の年収が得られるわけではありません。
病院の勤務医と開業医でも年収は異なります。
さらに、年齢によっても年収は変わってくるので、20代、30代だと年収が1,000万円を下回るケースもあるでしょう。
このほか、当直や残業の回数や時間でも、年収は変わってきます。
自治体によっては平均年収よりはるかに高い年収を提示して医師を呼び込んでいるところもありますが、そのようなところは、休日も満足に取れない場合もあります。
産婦人科医として病院に勤務する場合は、年齢やキャリアに応じて給与が決まるのが一般的です。
キャリアがあり、高い技術を持っている医師にはそれに見合った給与が提示されます。
産婦人科医はリスクが高い?
産婦人科医は、ほかの診療科に比べると患者さんから訴訟されるリスクが高いイメージを持っている方もいます。
実際、産婦人科医が民事訴訟される件数は、形成外科(美容外科含む)に次いで多いです。
また、2004年には福島県の病院で帝王切開を行った妊婦さんが手術中に死亡したことを理由に、医師が逮捕、起訴されるといった事件も起こっています。
なお、この事件は裁判の結果、医師は無罪となりましたが、世間を大きく揺るがせました。
産婦人科医が訴訟を起こされるリスクが高いのは、健康な方が「妊娠」によって患者となることが多いためです。
医療技術が進歩し、妊娠、出産のリスクが低まると「出産は病気ではない」といった考えが定着し、妊娠中や出産の途中に不測の事態が起こると医療ミスでは?と疑われるケースが増えたのです。
現在は、日本産科婦人科学会を中心に産婦人科医の待遇改善を含め、高い訴訟リスクから医師を守る仕組み作りがすすめられています。
ですから、産婦人科医がただ1人で訴訟に対応しなければならない、といったことはありません。
産婦人科医は女性のほうが有利?
産婦人科医は診療科の中でもトップクラスに女性医師が多く、全体の4割近くが女性医師です。
産婦人科は、妊娠や出産を含めて女性特有の疾患を治療する診療科です。
いくら勉強しても、男性医師には実感できない症状や感覚もあるでしょう。
また、診療のためとはいえ、乳房などデリケートな部分を男性医師に診せたくない方もいます。
そのため、男性医師と女性医師の両方が勤務している病院では、女性医師を指名する方も珍しくありません。
しかし、男性医師が圧倒的に不利ではありません。
男性特有の疾患が多い泌尿器科にも女性医師がいるように、男性医師でも看護師や助産師さんなどのサポートがあれば、患者さんとのコミュニケーションをスムーズに行なえるでしょう。
産婦人科医のやりがいや向いている人
ここでは、産婦人科医のやりがいや産婦人科医に向いている方の特徴を紹介します。
どのようなやりがいがあり、どのような特徴を持つ方が向いているか知りたい方は、参考にしてください。
命の誕生に立ち会える
産婦人科医の最も大きなやりがいは、命の誕生に立ち会えることです。
医師は病気になった方を治すのが仕事ですが、生命の誕生に仕事として立ち会える医師は、全ての診療科の中でも産婦人科医のみです。
命の誕生は神秘と喜びに満ちあふれており、何度立ち会っても感動する医師も珍しくないと言われています。
また、赤ちゃんの誕生に立ち会うと勤務の疲れも吹っ飛ぶという医師も多いそうです。
体力と使命感がある人が向いている
産婦人科医は診療科の中でも、特に体力が必要です。
お産は、いつ、どのように始まるか分かりません。
予定日はあくまでも予定日であり、妊婦さんによっては予定日より前の夜中や明け方にお産が始まる場合もあるでしょう。
したがって、自分の担当患者が臨月に入ると、産婦人科医は気が休まるときがありません。
また、お産は人によっては、24時間以上かかるケースもあります。
この場合も、医師は万が一のときに備えてずっと待機しています。
つまり、勤務している病院によっては24時間365日オンコール状態、といったケースもあるでしょう。
体力はもちろんのこと、高い使命感がなければ続きません。
現在は、産婦人科学会を中心に、産婦人科の勤務待遇を改善できるように働きかけを行っています。
そのため、以前より勤務状況が改善し、医師も休みが取りやすくなった病院もあるでしょう。
それでも、人一倍体力が求められることには、変わりありません。
産婦人科医になるまでの流れ
産婦人科医になるためには、まずは大学の医学部医学科に入学しなければなりません。
ここでは、大学入学を含めて産婦人科医になるまでの流れを紹介します。
医学部に入学する
産婦人科医になるためには、まず大学の医学部医学科に入学します。
そして、定められた単位を取得して卒業しましょう。
そうすれば、医師国家試験の受験資格を得られます。
2023年現在、医学部医学科に入学する以外、医師国家試験の受験資格を得る方法はありません。
ですから、医師になりたいなら、頑張って大学の医学部医学科に合格しましょう。
医学部医学科は、82の大学に設置されています。
そのうち、国公立大学が50校、私立大学が31校、防衛医科大学校が1校です。
医学部は難易度も倍率も全ての学部の中でトップクラスです。
偏差値は最低でも60以上、倍率は国立で4倍、私立大学で12倍程度となっています。
したがって、医学部に合格するには並々ならぬ努力が必要です。
入試には全国の高校からの成績上位者のほか、何年も浪人しながらチャレンジを続ける方も集まります。
最後まで気を抜かずに勉強に励むことが大切です。
また、医学部の試験は学科試験のほか、小論文や面接など独自の試験が科されます。
そのため医学部受験専門の対策も重要になってきます。
医師国家試験に合格する
医学部医学科に合格したら、6年間かけて定められた単位を取得します。
これは、通常の大学生と同様ですが、医学部は進学の基準が厳しく、所定の単位が取れなければ、容赦なく留年が決まります。
留年が重なると退学しなければならないため、必死で勉強する学生が大半です。
無事に6年で所定の単位を取得したら卒業試験を受けます。
医学部の卒業試験は1〜3ヵ月間に渡って行われ、不合格だと卒業できません。
卒業試験に合格したら、毎年2月に行われる医師国家試験に挑みます。
2023年の医師国家試験の合格率は91.6%でした。
しかし、これはあくまでも全国平均であり、大学によっては90%を切るところもあります。
また、医師国家試験の合格率が低いことは、大学にとって不名誉なので、卒業試験を難しくして医師国家試験に不合格になりそうな学生を合格させないといった噂がある大学もあります。
それでもなお、10%近くは不合格になるのですから、難易度は決して低くはありません。
不合格になると1年間「医師国家試験浪人生」として過ごさなければならないので、一発合格できるように勉強に励みましょう。
初期研修を受ける
医師国家試験に合格したら、初期研修医として就職した病院でいろいろな科をローテーションして研修を行います。
研修期間は2年間で、1つの科を1〜3ヵ月かけて研修を受けますが、産婦人科は2年目で1か月間の研修を行います。
外科、内科に比べると研修期間が短いですが、この期間中に学ぶことも多いので、忙しい日々となるでしょう。
その後、地域保健・医療の各領域で研修をします。
残りの月日は自身で診療科を選択して研修を受けて初期研修は終了です。
産婦人科医を志望するなら、初期研修の最後に産婦人科を選択し、本当に産婦人科医になるかどうか最後に考える時間を作りましょう。
専攻医となりより専門的な研修を受ける
2018年より導入された新専門医制度により、初期研修を修了した新米医師は専攻分野を決定して、より専門的な知識を身に付けるべくさらなる研修を行います。
産婦人科医になりたい場合は、3年間産婦人科医のみで研修を積みます。
専攻医になるとだんだんと担当患者も持てるようになり、手術も任されるようになるでしょう。
また、当直も積極的に任されるようになり、出産に立ち会う機会も増えます。
最低でも3年間の研修を終えると、ようやく「産婦人科医」と名乗れるようになり、開業も可能です。
ここから、勤務医となるか開業するかを選択しましょう。
現役で合格して留年せずに医師になった場合、この時点で30歳前後です。
産婦人科医になるメリットと注意点
産婦人科医はやりがいやメリットも多いですが注意点もあります。
ここでは、メリットのほか注意点も紹介します。
医師不足で需要は高く給与も高い
産婦人科医は、特に医師の減少が問題になっている診療科です。
だからこそ、産婦人科医を志望する研修医は重宝されるでしょう。
少子高齢化が進んでいる現在ですが、出産人口はまだまだ一定数あります。
産婦人科医が不足している地域の自治体では、相場の2〜3倍の報酬で医師を招くところもあるでしょう。
また、生殖医療の分野は成長著しく、不妊治療を選択する夫婦も年々増えています。
不妊治療のクリニックを開業すれば、患者さんを多く確保できる可能性も高いでしょう。
女性医師が増えているので働き方も多様化している
産婦人科は女性医師が4割近いため、働き方も多様化しています。
常勤だけでなく、非常勤や時短勤務が選択可能な病院も増えているため、女性医師にとっては働きやすい環境の病院もあるでしょう。
そのため、キャリアと私生活の充実を両立させたい女性医師は、産婦人科を選択すると病院によっては働きやすいでしょう。
その一方で、男性医師との協力が不可欠です。
男性医師ばかり負担が重くならないように、医師同士の思いやりも大切になってくるでしょう。
拘束時間が長いので体力勝負となりがち
前述したように、お産はいつ、どのように始まるのか分からないので、産婦人科医はどうしても拘束時間が長くなりがちです。
若手医師ほど当直の回数が多い病院もあるでしょう。
また、帰宅しても担当患者さんに何かあれば呼び戻されるケースもあります。
体力が続かずに産婦人科を辞め、婦人科のみの診療科に勤めるケースもあるでしょう。
体力に自信がない、医師だけどプライベートも充実させたい場合などは、他の科と慎重に比較して決断してください。
医学部に合格するなら予備校選びが重要
最後に、産婦人科医になるために最初に突破しなければならない難関である医学部に合格するためのポイントや、予備校選びの重要性を解説します。
医師を目指している学生の方は、ぜひ参考にしてください。
医学部専門予備校の特徴
医学部専門予備校とは、文字どおり医学部の受験に特化した予備校です。
一般的な予備校よりも数が少なく、学費も高めです。
そのかわり、学生1人1人へのサポートが手厚く、マンツーマン指導や個人の学力に合わせた専用カリキュラムを組んでくれる予備校も多いです。
また、医学部受験の最新情報も素早く入手でき、メンタルサポートにも力を入れている予備校もあります。
医学部予備校のメリット・デメリット
医学部専門予備校は、医学部の受験に特化した予備校なので、絶対に医学部しか行きたくない学生にとっては最適です。
一方、全国に教室を展開する大手予備校の「医学部コース」は、医学部だけでなく他の学部への対策も行っています。
したがって、医学部以外の学部にも興味がある学生は、一般的な予備校のほうが潰しが聞くでしょう。
医学部専門の予備校は医学部以外の学部の入試対策は行ってくれないところもあります。
途中で志望学部が変わったら、退学して別の予備校に通わなければならないことも出てくるかもしれません。
また、単純に学費だけを見た場合、大手予備校のほうが補習を付けてもなお安価です。
医学部に絶対合格したいなら医学部専門予備校が一押し
医学部に絶対に合格したい場合は、医学部専門予備校への入学をおすすめします。
高校3年生の段階で、現役合格が厳しい成績でも、マンツーマンで指導を受ければ一気に成績が伸びる可能性があります。
また、成績が十分合格範囲の学生でも、医学部受験に特化した勉強を続ければ現役で合格できる可能性がより高まるでしょう。
まとめ
産婦人科は命の誕生に立ち会える唯一の診療科であり、やりがいも大きいです。
一方で、体力勝負で訴訟リスクも高いといったデメリットもあります。
魅力とデメリット、難易度、全てを調べてから、産婦人科になるかどうかを決めましょう。
また、医学部に可能な限り現役で合格したい場合は、医学部専門予備校への入学がおすすめです。
この記事の執筆者:医進の会代表 谷本秀樹
大学入試は四谷学院などの大手予備校や多くの医学部受験予備校で、主に生物の集団授業と個別授業で300人以上の受験生を担当。
自身の予備校『医進の会』発足後は、これまで500人以上の生徒の受験と進路指導に携わってきた。
圧倒的な医学部入試情報量と経験値、最適なアドバイスで数多くの受験生を医学部合格に導いてきた、医学部予備校界屈指のカリスマ塾長。